『狙った獣』マーガレット・ミラー~読書ブログ26

アメリカ 1955年(第二次世界大戦終結から10年)

難易度 ★★





鬼才と呼ばれた女流作家

古典ミステリの傑作と言われている作品です。わたしがミラーを知ったきっかけは、ミステリライターの知人から『まるで天使のような』を勧められたこと。それから続けて『殺す風』『眼の壁』『狙った獣』と四冊読了。


『狙った獣』、『まるで天使のような』、『殺す風』の三冊は、おそらく作者がノッている時期に書かれたのかな、それぞれ作風がまったくちがうんだけど、名作と呼ばれるだけはあるなあという印象です。翻訳もどれも素晴らしいと思います。


『眼の壁』のみ初期の作品で、腑に落ちない部分が多く、おすすめできません。それ以前に、小学館文庫版の翻訳は読みにくく、誤植のオンパレードで、本としての体裁がなってないです。


サイコ女のサスペンス

さて、本題の『狙った獣』。主人公は、ホテルに一人引きこもって暮らしているヘレン・クラーヴォーという三十歳の女性。彼女は亡くなった父の遺産のおかげでお金には困っていないのですが、世間的にはオールドミスと見られ、家族とは疎遠です。


ある夜、ヘレンの元へ一本の電話がかかってきます。古い友人だと名のるエブリンは、最初はたわいもない会話をしているんだけど、次第に怒り出して、やがて「水晶玉にあんたが事故に遭い、血だらけになって映ってる」と言い出します。


ヘレンは恐ろしくなって電話を切り、父と付き合いのあった投資コンサルタント・ブラックシアに助けを求めます。で、このブラックシアが探偵役となって、エブリンを探すという筋書き。


人間心理の達人

というわけで、簡単に言うと、サイコ女のお話なんですが、ミラーは異常心理を書くのが上手い! 文章って頭の中で考えていることをつぶさに再現できますよね。だから、サイコ女の考えていることが読者にダイレクトに伝わってくるんです。これは映画ではできない、小説ならではの楽しみ。しかもミラーの文学性の高い文章のおかげで、味わいある(?)異常心理になっています。


もちろんミラーは異常者だけではなくて、ありふれた人々を書くのも上手いと思います。よほど人間という生き物に関心のあった人なんだろうなあ。


必殺の一撃

ラストはどんでん返し! 特に『まるで天使のような』の一文必殺は有名らしいですが、『狙った獣』、『殺す風』もやっぱり必殺のどんでん返しがあります。登場人物の心理をつかんでいるだけじゃなくて、読者の心理もうまくつかんで誘導してくる、人の悪い作家さんだ~(笑)


小説の評価は読者の価値観で大きく分かれるけど、質という別の次元での評価もあると思います。ミラーの作品は文章がていねいに書かれていて、これは面白い描写だな~と思うことが多々あります。人物もしっかりと書き分けられています。会話文の気が利いています。わたしが四冊一気に読んだ理由は、実はこの小説の基礎力が優れているなあと思ったからです。地味だけど、大きな魅力なんですよね。


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