『穴』ルイス・サッカー~読書ブログ23

アメリカ 1998年

難易度 ★(とても読みやすいです)



気弱な少年の、痛快な冒険小説

今回はこの読書ブログの本来の趣旨に戻って、読みやすくて面白い本をご紹介します。アメリカでは数々の児童文学賞を受賞しているみたいだし、子どもだけに読ませるのはもったいない! 完成度が高く、痛快な冒険小説です。


主人公の少年スタンリーは太っていて、いじめられっ子。そして無実の罪で、沙漠の中の矯正施設に入れられてしまいます。そこでやらされるのは、なんと穴掘り。毎日一個、直径一.五メートルの穴を掘って、何か発見したら報告するようにと命じられます。やることはそれだけなんだけど、炎天下の砂漠で、十分な水ももらえず毎日穴掘りはキツイ。人格形成のためと言われるんだけど、どうやらそれが目的じゃなさそうな……。そして、スタンリーの謎とき、冒険がはじまっていくのです。


スタンリーのキャラクターがユニークなんですよね~。訳者さんのあとがきにもあったんですけど、運命を受け入れるタイプ。無実の罪⇒受け入れて、矯正施設へ行く。/水をもらえない⇒我慢する。少しずつ飲んで、自分なりに調整する。/いじめられる⇒逆らわない。相手を怒らせないように、気をつける。


……とまあ、自己主張するよりも、波風立てないように周囲に合わせる性格です。主人公にはなかなかいないタイプですよね。なんかこの子日本人っぽいよな~と思ったり(笑) スタンリーの置かれた状況は過酷だけど、語り口にユーモアがあって、あまり悲惨な感じがしない。不幸も笑えてしまうというか、いい意味での軽さが魅力です。


一筋縄ではいかない面々

そしてスタンリーの他にも個性的なキャラクターがたくさん出てきます。何しろ矯正施設だから、収容されている少年たちも施設員も、一筋縄ではいかない。だからよけいに、スタンリーの気弱さが引き立つわけですが。


少年たちはあだ名で呼び合っているんだけど、それがまた面白いです。「X線」「イカ」「ゼロ」などなど、名前とは思えないものばかり。ちなみにスタンリーは「原始人」と勝手に名付けられ、それって僕のこと?と驚き、もちろん気に入ってはいないんだけど、受け入れます(笑)


完成度高い!

実はスタンリーの物語と並行して、スタンリーのひいひいじいさんの話が語られます。それが絶妙なタイミングで挟まれる、構成が面白いです。ひいひいじいさんはもちろん死んでしまってますが、それが穴掘りをしているスタンリーとどう関わってくるのか?も読みどころ。 


とにかくたくさんの伏線が散りばめられています。それらがクライマックスで集約していき、納得の結末になるのです。最後はパズルのピースが見事に収まって、なるほど~あれがこうきたか~とうなってしまいました~。文学オタクのわたしには、この伏線も痛快でした!


翻訳もよかったです。文章のリズム感がよくて、スラスラ読めました。原文を読めない者にとっては、訳者さんが頼り。こういう翻訳はありがたいですよ~!


こんな気弱な主人公で冒険小説になるの?と疑問に思った方は、ぜひ読んでみてくださいね。本当に痛快ですから!


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東原恵実's 小説あれこれ

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