『シンプル・プラン』スコット・スミス~読書ブログ21

アメリカ 1993年

難易度★★ (長いですが、文章は読みやすいと思います)


↑ Amazonではリンクできませんでした。なんでかな?


突然大金が手に入ったら……?

たまに「突然大金が手に入ったら、どうする?」なんて冗談を言い合うでしょ? 『シンプル・プラン』はそんなミステリです。わたしは本当にはまりました。友だちにも貸したことがあるけど、最後まで読み切れた人はみんな、面白いと絶賛してくれましたよ~。


はじまりはアメリカの田舎町の雪原。主人公は会計士の弟ハンク。大みそかの日、兄ジェイコブ、兄の友人ルーと三人で両親のお墓参りに出かけます。兄弟の両親は借金苦で自殺していて、墓参りをして欲しいという遺言を残したんですね。


そして彼らは果樹園の中で、墜落した小型の飛行機を見つけます。中には死んだパイロットと百ドル札の札束が詰まった袋。そばには誰もいない。


ここで面白いのが三人の反応のちがいです。


会計士の弟ハンクは警察に届けようと考えました。このお金は麻薬がらみのお金じゃないか。

無法者のルーは、一束ずつネコババしようぜ! 誰も見てないんだからさ!

兄ジェイコブは最初は黙っていたのですが、やがて、丸ごともらっちまおうぜ!


このちがいは三人の性格を反映しているだけじゃないんです。ハンクは定職に就いているけど、ジェイコブとルーは無職。でもジェイコブは兄であり、悪友ルーとつるんでは、ハンクをバカにするような態度をとっている。もうわかると思うけど、兄弟は仲が悪く、お墓参りでもなければ、会うこともない。


結局三人はとてもシンプルなプランを立てます。お金はハンクが六カ月間預かって、そのあいだは三人とも今までどおりの生活をして、このことは誰にも話さない。もし六カ月のあいだに持ち主が名乗り出たら、面倒にならないようお金は焼き捨てる。もし持ち主が現れなかったら、三人で山分けする。これならできそうだと誰もが納得できる、いいプランですよね~。


でもね、無職の男が六カ月も目の前の大金を我慢していられると思います? 家族にも誰にも話さずにいられると思います? 結局ささいなルール違反から、事態は坂道をころがるように悪化していくのでした…。


普通の人の転落

この作品が面白いのは、主人公のハンクが普通の人ってところだと思います。彼は誰もが羨む成功者というわけではないけど、会計士という真っ当な仕事に就いていて、奥さんは第一子を妊娠中。ルーやジェイコブのように無軌道で落ちぶれた生活を送っているわけではなくて、安定した暮らしと日々の幸せをつかんでいるんです。


ハンクは収入があるし、会計士だから、無職の二人とはちがうと思っています。でも収入があっても、お金は欲しいもの。たとえばお金が足りなくてあきらめた夢の一つや二つ、誰にでもありますよね。お金があったら、留学したかったなあ、とか。お金さえあれば、そういう夢を叶えることができるわけですよ。


一方で、普通の人はそれなりの幸せをつかんでいるから、それを失いたくはありません。ハンクの場合、逮捕されれば、奥さんと生まれてくる子どもにも会えなくなるわけで、それは避けたい。


これらがこの小説のいちばんコワイところだと思います。たいていの人はハンクに近い生活を送っているから、ハンクの立場を理解できてしまう。自分も同じ行動をとるかも…と。


デビュー作とは思えないほど、上手い作品だと思います。描写は細かいですけど、もたつかないし、視点も面白い。翻訳者の近藤純夫さんに感謝です。キャラクターの配置も絶妙。たとえばもし兄が会計士で、弟が無職だったら、兄弟のねじれは起きなかったと思います。見せ方も緻密に計算されていて、伏線の連続。そんなわけで、わたしはすっかりこの作家さんのファンになったんだけどなあ。十年待った新作『ルインズ』はイマイチだった…。


★ 人気ブログランキングに参加しています。面白かったら、クリックをお願いしますね!



東原恵実's 小説あれこれ

『裏切りへの贈り物』『懺悔の城』(講談社X文庫刊)の続編、その他の作品情報、執筆状況、 読書ブログ「海外小説を読もう!」をご紹介しています。

0コメント

  • 1000 / 1000