『悪童日記』アゴタ・クリストフ~読書ブログ18

フランス 1986年(日本はバブル経済がスタート)

難易度 ★(文章は読みやすいです。文章はね…)




初めて読んだとき、この異様さにびっくりした! こんな小説は他で読んだことがないと思った! 子どもが書いた作文という形式なので、誰でも読めるんだけど、純粋無垢な子どもの作文ではない、異色作です。男友だちに薦めたら、「グロすぎて、最後まで読めなかった」と言われました。何よ、わたしは20代のとき、楽しく読んだわよ。


残酷な現実を生き抜く訓練

主人公は双子の男の子たち。第二次世界大戦末期、生活に困窮した母親が10年間音信不通だった祖母を訪ねて、双子を預けて立ち去ります。そんなわけで、ハンガリーの田舎の村で美しき双子の新しい生活が始まるのです。しかしほのぼのとした展開にはなりません…。


まずこのおばあちゃんが異様なキャラです。村では「魔女」と呼ばれているんだけど、ほぼ妖怪…。けちで、汚くて、ずるくて、残酷。さらにどうやら夫を毒殺し、しらばっくれているようです(でもどこかユーモラスで、孤独感や必死さも感じられて、わたしは嫌いじゃないです)。


こんなおばあちゃんのもとで双子ちゃんは暮らしていけるのかしら?と心配する方もいるかもしれないけど、それは不要。双子は恐るべき適応能力を発揮します。自ら心身を鍛え、どんな極限状態にも対処できるようになるのです。断食で飢えに耐えられるようになっておく、ふだんから不潔にしておく、動物を殺して残酷な行為に慣れておくって…そりゃあ備えあれば患いなしって言うけど、そこまでやらんでも…。


おそらく作者は、戦時中の世界で起きているのはもっと残酷なことなのだと言いたかったのだと思います。そこまでやらんでも…と思うのは、恵まれた社会で生きているからだよ!と言われることでしょう。すみません。


双子は訓練の成果もあり、現実世界をしたたかに生き延びていきます。おばあちゃんが妖怪なら、双子は怪物って感じに成長していくんですね。


事実のみを見る目

同時に双子は作文を書きはじめ、作文にはルールを設けています。「精確で客観的な事実のみを書くこと」「感情は主観的で、漠然としているので、書かないこと」 この作文が『悪童日記』の本文になっています。つまり残酷な現実を淡々と描写するだけという異様な文体なんだけど、人間の本質を突いてくるように感じられます。ここがまた読みごたえありなんです!


作文の主体はつねに「ぼくら」です。どちらかを指すときは、「ぼくらのうちの一人」「ぼくらのうちのどちらか」と表現されます。双子の名前は出てこず、性格のちがいなども書かれていません。この双子の徹底した一心同体ぶりは異様に感じられるんだけど、この人称が衝撃のラストシーンにつながっていきます。ものすごい構成です!


やがて独自の正義で裁く

心身を鍛え、周囲を客観的に見るようになった双子は、やがて独自の正義を行なっていきます。彼らのやり方で人を裁くんですね。双子の正義は暴力や殺人もいとわないけど、根底にあるのは愛や思いやり、命と尊厳を守ることなんです。獣のような人間が多い中、人間として生きることをあきらめていないようにも見え、一方で正義を行なうほど怪物化していくような…。


彼らのやり方はテロリズムと言ってしまえばそれまでなんだけど、共感する人は多いと思います。だから一時的なベストセラーで終わらず、名作として読み継がれているんじゃないかなあ。


この作品には続編『ふたりの証拠』『第三の嘘』があります。こちらは多くの人が傑作と評する本作と比べると、賛否両論が分かれると思います。わたしは『悪童日記』のキレのよさが好きなので、本作のみで終わったほうがよかった派です。


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