『猫の帰還』ロバート・ウェストール~読書ブログ11

イギリス 1988年(昭和の終わり。ソウルオリンピックが開かれた年です)

難易度 ★★(児童文学だから、読みやすいはずなんだけど、わたしはひっかかる)



戦時を書く作家

作者のロバート・ウェストール氏は児童文学界では巨匠と呼ばれています。わたしは5作品読んだけど、どれも代表作と呼べるほど読み応えあり。でもすべて戦争がらみなんですよね。今回紹介する作品の舞台は第二次世界大戦中の1940年なのに、書かれたのは1988年。戦後ずいぶん時間が経っています。戦争がこの作家の心にどれほど大きな影響を与えたのだろうと思うと同時に、戦争がなかったら彼は何を書いただろうかとも思います。



猫の冒険

戦争ものはニガテ~という方もいると思うけど、主人公は黒猫です。戦争で離ればなれになった飼い主を追って、猫が第二次世界大戦下の町を旅していくという、基本は冒険小説。平時よりも戦時のほうが危険なので、そりゃあスリリングな展開になります。


そして猫と戦争はなかなか面白い組み合わせです。だって猫は戦争をしないから。餌と安全な寝床を提供してくれれば、人種も国境も政治も関係ない。戦争に関して、猫は完全な部外者なんですね。そんな猫の視点で戦争を見ると……ここに作者のメッセージが表れています。


複雑な人間模様

シンプルな猫の生き様とは対照的に、そこまでシンプルに生きられないのが人間というもの。この作品の一つ目の視点は猫だけど、二つ目の視点は猫と出会った人々です。人間というやつは悩むし、間違うし、絶望するし、立ち直るし。そして猫という生き物はそんな人間たちの生活に入りこむのがうまい! だって痩せた猫が目の前を歩いていたら、餌をあげたくなるでしょ~! ここでも猫という設定が生きていると思います。


ユダヤ人の血が混じっているためおびえる監視人のお手柄。軍隊こそ自分の居場所と思っている軍曹の恋。空襲で町を焼かれた町民たちの生活再建。他にもいろいろな人生の1ページが見えては、去っていきます。戦争だろうがなんだろうが、人間は生きていかなきゃならない。そんな力強いメッセージが感じられます。が、深すぎて、もはや子ども向けじゃないような気もするな……。


最後に、この作品では黒猫は幸運のしるしと書かれていたことがびっくりでした。黒猫って魔女の使い、災いを呼ぶものじゃなかったの?


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東原恵実's 小説あれこれ

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