『ビリー・リンの永遠の一日』ベン・ファウンテン~読書ブログ10

アメリカ 2012年

難易度 ★★★(抽象的な言葉が多いので、本を読みなれている方向け)


 

新潮クレスト・ブックス

今までは「軽めの読み物が好き」という人向けに、読みやすくエンタメ度の高い作品を紹介してきました。職場で隣の席に座っている人に、「これ、面白いよ。読んでみる?」的な感じ。


読書を楽しむには読解力が必要なんですよね。言葉は記号なので、イメージに変換しないと意味をなさないから。物語を表現するツールに、映画、漫画、アニメもあるけど、文章よりやっぱりわかりやすいと思います。絵や音があるので、視覚と聴覚でダイレクトにイメージが入ってくるから、そこまで記号のイメージ変換作業をしなくていい。そしてこの変換作業能力が読解力なんだと思います。


だから、本のほうが読者を選ぶのだと思うんですよね。「この本読みたいな」と思っても、読解力のない人は相手にしてもらえません。わたしも「もう少し読解力をつけてから、またおいでね」と、門前払いされた本がいったいどれだけあることか(泣)


さて、「新潮クレスト・ブックスシリーズ」は海外小説好きなら誰もが知っている、新潮社のシリーズです。上質で、でも日本では知られていない作家さんの作品を紹介してくれる、ありがたい企画。編集者さんたちの心意気に感謝。好みは分かれるだろうけど、駄作はないです。エンタメ度は低いけど、味わいはあります。そして多少の読解力は必要な作品が多いです。



ものすごくブラックな小説

『ビリー・リンの永遠の一日』は戦争小説の傑作と言われ、全米批評家協会賞を受賞しているそうですが、かなり異色。戦争ものなのに、戦闘シーンは回想でちょっと出てくるのみ。舞台は本当に他国と戦争しているのか?と思うほどノーテンキでしたたかなアメリカです。


主人公のビリー・リンは19歳のイラク戦争の兵士。高校卒業前に暴力事件を起こし、重罪の告発を逃れるために兵役につくことにしただけで、愛国心から志願兵になったわけじゃない。そんな彼が激しい戦闘を生き延びて、仲間たちと一時帰国すると、母国から英雄として熱狂的に迎えられます。


ショーに借り出され、映画化の話が持ち上がり、スターのように扱われる兵士たち。激しい戦闘も仲間の死も、商品として消費されていきます。このアメリカ社会を見る作者の視点の鋭さ、冷徹さがこの作品のキモ。ここまでの風刺力は他の作家さんではなかなか見られません。見事にぶった切っていて、痛快でした。そして考えさせられました。


ものすごくピュアな小説

この作品は風刺小説であると同時に、純愛小説、青春小説でもあると思います。ビリーはアメリカ社会に英雄として消費されるけど、大切にしている人たちと自分自身のために英雄であろうとします。ふつうの19歳の青年のピュアな愛が、生き方としての英雄を創る。アメリカ社会の醜さを見せつけられたのに、読後感はさわやかでした。


ビリーは素行がいいとは言えない青年なので、この一冊でいったい何回「クソ」という言葉が出てくるんだ?という作品だけど(笑)、チャレンジしてみる価値はあると思います。


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東原恵実's 小説あれこれ

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