『外套・鼻』ニコライ・ゴーゴリ~読書ブログ2

ロシア、1842年(日本は江戸時代。天保)

難易度 ★(冒頭の状況説明が終わったら、読みやすくなります)

ロシア文学の父

ロシア文学というと、ドストエフスキー、トルストイ、チェーホフあたりだよね、暗くて重そう……と思っている方が多いんじゃないかな? 今回はロシア文学の父・ゴーゴリの『外套』をご紹介します。暗くて、笑えます。


とことん無価値な主人公

ストーリーは、貧乏でなんの取り柄もない小役人が外套(コート)を新調するという話。え、それだけ?と思うでしょ。ところがこの主人公アカーキイ・アカーキエヴィッチがすごいんです。わたしは現在1451冊の読書記録を持っているけど、その中でぶっちぎり地味な主人公です。


お金のない彼は、最初仕立屋ペトローヴィッチに、コートをつくろってほしいと頼みます。ところが「これはぼろすぎて直せない。仕立てないとだめだ」と言われてしまうのです。すると、彼はショックのあまり、


・ 眼がぼうっと暗くなり、部屋の中のありとあらゆるものが混乱した。

・ 帰り路は、家のほうへ行く代わりに、自分ではなんの疑いも抱かずに、全然反対の方角へ歩いていった。


となります。念のためにくり返しておきますが、仕立屋にコートを新調しろと言われただけです。


結局コート代を貯めるために、節約を始めるんだけど、この節約法がまたスゴイ。


・ 空腹を我慢する。

・ 靴底がすりへらないように、つま先で用心深く歩く。

・ 下着を洗濯屋に出さないですむよう、仕事から帰ったら脱いで、部屋着に着替える。


時代がちがうとはいえ、コートのためにここまでするんだ…。冬のロシアよ? 下着脱いで、風邪ひいたら、かえって高くつくんじゃないの? この作品では、貧乏もみじめさも突き抜けると、悲惨さを軽々と通り越して、笑いに転じるものなのだということを教えてくれます。


しかも彼のすごいところは、この節約ライフで精神的な豊かさを得ているんですよ! なぜかって、新しいコートをまだ見ぬ生活の伴侶と思い、それを得るという人生の目標ができたから、だそうで。ファストファッションで簡単に洋服が手に入る今は、精神的な豊かさを損なっているのかもしれないなあと一瞬思ったけど、こんな節約をするくらいなら、物質的な豊かさのほうがいいです。


こんなふうに、アカーキイ・アカーキエヴィッチはみじめで、情けなくて、次々と不幸が襲いかかってくる受難の日々を送っているんだけど、不幸を嘆いているだけではなく、彼なりに立ち向かっていくんです。非力なので、吹き飛ばされることも多いけど、起きあがりこぼしみたいにすぐ立ち直るたくましさがあります。それが彼の唯一でものすごい長所だと思うわ。


究極の節約ライフのおかげでお金も貯まり、彼はめでたく素敵なコートを手に入れます。よかったねと思いきや、その日のうちにコートは強奪されてしまうんですよ~! 展開早っ! こんなにがんばったのに、なんでよ~!?と思っていると、その後の彼にはさらなる不幸が……ネタバレはここまでにしておきます。


無価値な人間への愛

アカーキイ・アカーキエヴィッチは誰からも尊重されず、大小さまざまな不幸に埋め尽くされた人生を送っていて、ゴーゴリは「ハエ以下の存在」というようなことまで書いているんだけど(いくら作者でもこれはひどい)、文章の端々に主人公へのあたたかい愛情が感じられるんです。これだけいじめておいて、あたたかみを感じさせるというのは見事というほかありません。


彼だけではなく、飲んだくれの仕立屋や宿のおかみさんやら、欠点の多い普通の人々がユーモラスでほほえましく書かれています。ゴーゴリという人はただのサドなんだか、仏さまのように心が広い人なんだか、わたしにはよくわかりませんでした。でもやっぱり根はいい人な気がするかなあ。


『鼻』もおもしろいけど、長くなるので、今日はこのへんで。


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