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アメリカ 2012年

難易度 ★★



万人受けする本はない!

読書ブログを書き始めて、一年が過ぎました。毎回自分が読んで面白かった本の中から、読みやすいものを紹介してきたつもりだけど、この一年でしみじみ思ったのは、万人に受ける本はないな!ってこと! 友人に本を勧めるときは、「この人なら、この本好きかも?」と相手の読書傾向に合わせられるんだけど、ブログは不特定多数。思っていたより難しいです。


何を選ぶかは毎回悩みます…。同じ本を読んで、真逆の感想を持つ人がいることは当たり前だけど、できれば読みたいと思ってもらいたいので。でもやっぱり好きな作品を語るという、自己満足で終わっている?(笑) 読書って本当に個人の趣味だものね。


さて、今回ご紹介の『ゴーン・ガール』、NYタイムズベストセラー1位らしいんだけど、Amazonのレビューを読んだら、「めちゃくちゃ面白い派」と「時間の無駄派」に見事に分かれていました(笑) レビューって、ファンかアンチによって書かれていることが多いですよね。どっちつかずの感想だったら、誰かにこの思いを伝えたいというエネルギーが湧いてこないせいかな。それにしても、ここまで分かれるか?って感じです(笑)



失踪した妻、疑惑をかけられた夫

舞台はアメリカ、ミズーリ州の田舎町。夫のニックは元雑誌のライター、妻のエイミーは高名な童話作家の娘で、人気童話の主人公にもなった元セレブ、元クイズライター。でも二人はネットの普及で仕事を失ってしまい、NYから引っ越してきました。いわゆる都落ち夫婦です。


結婚五年目の記念日に事件が起きます。エイミーが突然行方不明になったのです。部屋は荒らされて、アイロンややかんはかけっぱなし。ニックは警察に通報するのですが、やがて疑惑の目はニックに向けられていきます。エイミーの身に何が起こったのか? ニックは身の潔白を証明できるのか? という筋書き。


この作品の面白さは構成だと思います。現在のニックの視点と、過去のエイミーの日記が交互に書かれて、ストーリーが進んでいきます。二人の気持ちはズレていて、ニックはもはやエイミーを愛していないし、エイミーはニックを愛していると言いながら、理想の夫ではないことに不満を抱えています。


文章の書き分けも面白かったです。ニック視点のときは元ライターらしく、ちょっと理屈っぽく、皮肉交じりの文体。一方エイミーの日記になると、若い女性の語り口に変わります(『ブリジット・ジョーンズの日記』風かな)。多くの作家さんは、視点を変えても文体までは変えないので、これは凝っているなあと思いました。


キャラクターの面白さについても書きたいけど、それはネタバレになるから!


ひとつ注意点は、「ハッピーエンドが好き」「キャラクターに共感したい」という方には、あまりおススメできない作品です(笑) 「時間の無駄派」はこの読後感に拒絶している方が多いみたいです。この作家さんの『冥闇』も読んだけど、やっぱりやりきれないというか、救いがないというか、そういう作風の作家さんなのかも? わたしはバッドエンドだろうと共感できないキャラクターだろうと、ちゃんと意味があるなあと思えたら、OKなのですけど(^^)。


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アメリカ 1955年(第二次世界大戦終結から10年)

難易度 ★★





鬼才と呼ばれた女流作家

古典ミステリの傑作と言われている作品です。わたしがミラーを知ったきっかけは、ミステリライターの知人から『まるで天使のような』を勧められたこと。それから続けて『殺す風』『眼の壁』『狙った獣』と四冊読了。


『狙った獣』、『まるで天使のような』、『殺す風』の三冊は、おそらく作者がノッている時期に書かれたのかな、それぞれ作風がまったくちがうんだけど、名作と呼ばれるだけはあるなあという印象です。翻訳もどれも素晴らしいと思います。


『眼の壁』のみ初期の作品で、腑に落ちない部分が多く、おすすめできません。それ以前に、小学館文庫版の翻訳は読みにくく、誤植のオンパレードで、本としての体裁がなってないです。


サイコ女のサスペンス

さて、本題の『狙った獣』。主人公は、ホテルに一人引きこもって暮らしているヘレン・クラーヴォーという三十歳の女性。彼女は亡くなった父の遺産のおかげでお金には困っていないのですが、世間的にはオールドミスと見られ、家族とは疎遠です。


ある夜、ヘレンの元へ一本の電話がかかってきます。古い友人だと名のるエブリンは、最初はたわいもない会話をしているんだけど、次第に怒り出して、やがて「水晶玉にあんたが事故に遭い、血だらけになって映ってる」と言い出します。


ヘレンは恐ろしくなって電話を切り、父と付き合いのあった投資コンサルタント・ブラックシアに助けを求めます。で、このブラックシアが探偵役となって、エブリンを探すという筋書き。


人間心理の達人

というわけで、簡単に言うと、サイコ女のお話なんですが、ミラーは異常心理を書くのが上手い! 文章って頭の中で考えていることをつぶさに再現できますよね。だから、サイコ女の考えていることが読者にダイレクトに伝わってくるんです。これは映画ではできない、小説ならではの楽しみ。しかもミラーの文学性の高い文章のおかげで、味わいある(?)異常心理になっています。


もちろんミラーは異常者だけではなくて、ありふれた人々を書くのも上手いと思います。よほど人間という生き物に関心のあった人なんだろうなあ。


必殺の一撃

ラストはどんでん返し! 特に『まるで天使のような』の一文必殺は有名らしいですが、『狙った獣』、『殺す風』もやっぱり必殺のどんでん返しがあります。登場人物の心理をつかんでいるだけじゃなくて、読者の心理もうまくつかんで誘導してくる、人の悪い作家さんだ~(笑)


小説の評価は読者の価値観で大きく分かれるけど、質という別の次元での評価もあると思います。ミラーの作品は文章がていねいに書かれていて、これは面白い描写だな~と思うことが多々あります。人物もしっかりと書き分けられています。会話文の気が利いています。わたしが四冊一気に読んだ理由は、実はこの小説の基礎力が優れているなあと思ったからです。地味だけど、大きな魅力なんですよね。


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オーストラリア 2004年

難易度 ★(児童文学の上、訳もよくて、読みやすいです)




鬼才の癒し系小説

ハートネットは鬼才だと思います。独特な世界観、凝った構成、不思議な空気感の文章、深層意識にまで入り込む人物描写、高い完成度で、唯一無二の作家さん。


ただし、暗くて、救いがない作品が多いんですよね。大人でもメンタルが弱っているときにはやられますので、ご注意。カテゴリは児童文学だけど、これ子どもに読ませちゃトラウマになるだろ……といつも思います(笑) (『真夜中の動物園』とか、まったくおすすめできない)でもわたしは好きなので、ときどき無性に読みたくなりますけど。


そんな中、唯一子どもにも大人にもおすすめしたいのがこの『銀のロバ』です。他の作品に比べて、少し若い読者向けに書かれています。だからかな、他の作品はやや難解なのですが、この作品はわかりやすい。そしてやさしく、メンタルが弱っているときでも読める、唯一の作品かも?と思います(笑) どん詰まりな話ばかりじゃなくて、こういう話ももっと書いて欲しいんだけどなあ。


舞台は第一次世界大戦時のフランス、田舎町。幼い姉妹マルセルとココは、森の中で脱走兵のチューイさん(中尉さん)と出会います。チューイさんは、世界に失望して目が見えなくなっており、故郷のイギリスに帰りたがっているのでした。マルセルとココはなんとかチューイさんを助けようとするのですが……というのが、本筋。


ここにチューイさんが語る、ロバにまつわる挿話が入ってくるという構成です。全部で四本あるのですが、それぞれがやさしく、せつない話なんですよ~! この挿話が物語に深みを与えていると思います。


好きな作家さんだから、いろいろ書きたいと思ったけど、いざ書き始めてみると、今まででいちばん書きにくかった……。作品についていけず、切り口がうまくつかめないです。すみません。


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イギリス 1796年(日本は江戸時代、フランスではナポレオンが活躍している頃)

難易度 ★★(長いけど、読みやすい新訳も出てます!)



超ロングセラーのドラマチック恋愛小説

ちょっとおカタイタイトルの古典文学だけど、現在、岩波、河出、光文、新潮、ちくま、中公と、六社から出版されているんですよ! 発表から二百年たって、この人気ぶりってどうよ? ひとえに女子受けするドラマチック恋愛小説のせいじゃないかと思うんですけどね~(いやまあ、それだけじゃないか)。 


ちなみにわたしは光文社の古典新訳文庫版を読んだけど、古典を感じさせない軽さがあって、読みやすかったです。どんなに面白い作品でも、読みにくいと、挫折しますもんね。わかりやすいのってホントありがたいわ。


さて、舞台は一七〇〇年代のイギリスの田舎町。そこへ超大金持ちでイケメンのダーシー様が引っ越してきて、町は大騒ぎ! 五人の若い独身娘がいるベネット家では、母親が娘たちの玉の輿を狙って興奮状態! 物語は、娘以上にがっつくお母さんと、うちの娘たちは平凡だからね~と冷めているお父さんの会話から始まります。まったくかみ合わない夫婦の会話が、のっけから笑いとってます。


当時のイギリスは、長男のみがすべての財産を相続するという制度がありました(『ダウントン・アビー』を観た方はご存知と思います)。だから娘しかいないベネット家では、娘たちの嫁ぎ先も大問題なら、誰にわが家の財産を相続させるかも大問題。お母さんが大騒ぎするのも無理のない話なんですね。でもこのお母さんは騒ぎすぎだけどね。


そしてこのダーシー様のハートを射止めるのが、ベネット家の次女エリザベス。彼女はそれほど美人ってわけじゃないんだけど、頭がいいんですね。でも頭でいろいろ考えすぎちゃって、ダーシー様を高慢な男!と突っぱねます。そんなエリザベスこそ偏見のかたまりってわけ。さあタイトルが出揃ったところで、二人に未来はあるのでしょうか?


強力なライバルの出現、ダーシーを陥れる罠、家族の問題など、話は盛って盛って盛られています。とにかくサービス精神旺盛で、飽きさせることはありません。さらに二人の気持ちの変化にも注目です。


鋭い人間観察眼

オースティンは人間観察眼に定評のある作家ですが、この作品を書いたのは二十歳の頃。わたしは二十歳の娘さんらしいキャラづくりだなあと思うところもあれば、二十歳でこんな人物を書けるのか?とびっくりもしました。


ダーシーのキャラ設定は二十歳の娘さんらしいと思います。大金持ち、イケメン、ツンデレと三拍子揃っているんだもん(笑) そんな王子様キャラの彼が、身分が下で、美人でもなくはねっ返りのエリザベスに夢中になるんだから、もう女子の願望丸出しっていうか、胸キュンっていうか!(男子からはこんな男いねーよ!と言われそうだけど)


さらにダーシーの親友ビングリーはそれなり金持ち、イケメン、ちょいチャラ男(笑)で、二人が仲良くしていると、絵になるのよ~! 当時の女子も「ダーシー様とビングリー様、もうどっちも選べないっ!」「エリザベスとの恋はどうなるの~?」と身もだえしながら読んでいたはず。現代の少女マンガとほぼ同じ設定ですからね。女子って二百年たっても進化しないんだなあと思いました。きっとこれから二百年後も読まれていることと思います。


一方、脇役たちは個性的で、こんな人いるいる~って感じです。世界は自分中心に回っているかのようなベネット夫人(どこの家のお母さんもそんなもんだろう)、モテていると勘違いしているブ男コリンズ(他人の話を聞かない男って、イライラするのよね)、身分が高いってだけですべての人をバカだと見下すレディ・キャサリン(大韓航空一族?)ってな具合です。脇役たちのリアルさ、しかもどこかユーモラスに書いているところは、とても二十歳の娘さんの視点とは思えません。


オースティンがもし現代の日本に生まれていたとしても、人気作家か脚本家になっていただろうと思います。そのくらい時間や文化を越えたストーリーテラーです。古典文学は難しそうと思っている方にもおすすめ! ただし女子限定。


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アメリカ 1998年

難易度 ★(とても読みやすいです)



気弱な少年の、痛快な冒険小説

今回はこの読書ブログの本来の趣旨に戻って、読みやすくて面白い本をご紹介します。アメリカでは数々の児童文学賞を受賞しているみたいだし、子どもだけに読ませるのはもったいない! 完成度が高く、痛快な冒険小説です。


主人公の少年スタンリーは太っていて、いじめられっ子。そして無実の罪で、沙漠の中の矯正施設に入れられてしまいます。そこでやらされるのは、なんと穴掘り。毎日一個、直径一.五メートルの穴を掘って、何か発見したら報告するようにと命じられます。やることはそれだけなんだけど、炎天下の砂漠で、十分な水ももらえず毎日穴掘りはキツイ。人格形成のためと言われるんだけど、どうやらそれが目的じゃなさそうな……。そして、スタンリーの謎とき、冒険がはじまっていくのです。


スタンリーのキャラクターがユニークなんですよね~。訳者さんのあとがきにもあったんですけど、運命を受け入れるタイプ。無実の罪⇒受け入れて、矯正施設へ行く。/水をもらえない⇒我慢する。少しずつ飲んで、自分なりに調整する。/いじめられる⇒逆らわない。相手を怒らせないように、気をつける。


……とまあ、自己主張するよりも、波風立てないように周囲に合わせる性格です。主人公にはなかなかいないタイプですよね。なんかこの子日本人っぽいよな~と思ったり(笑) スタンリーの置かれた状況は過酷だけど、語り口にユーモアがあって、あまり悲惨な感じがしない。不幸も笑えてしまうというか、いい意味での軽さが魅力です。


一筋縄ではいかない面々

そしてスタンリーの他にも個性的なキャラクターがたくさん出てきます。何しろ矯正施設だから、収容されている少年たちも施設員も、一筋縄ではいかない。だからよけいに、スタンリーの気弱さが引き立つわけですが。


少年たちはあだ名で呼び合っているんだけど、それがまた面白いです。「X線」「イカ」「ゼロ」などなど、名前とは思えないものばかり。ちなみにスタンリーは「原始人」と勝手に名付けられ、それって僕のこと?と驚き、もちろん気に入ってはいないんだけど、受け入れます(笑)


完成度高い!

実はスタンリーの物語と並行して、スタンリーのひいひいじいさんの話が語られます。それが絶妙なタイミングで挟まれる、構成が面白いです。ひいひいじいさんはもちろん死んでしまってますが、それが穴掘りをしているスタンリーとどう関わってくるのか?も読みどころ。 


とにかくたくさんの伏線が散りばめられています。それらがクライマックスで集約していき、納得の結末になるのです。最後はパズルのピースが見事に収まって、なるほど~あれがこうきたか~とうなってしまいました~。文学オタクのわたしには、この伏線も痛快でした!


翻訳もよかったです。文章のリズム感がよくて、スラスラ読めました。原文を読めない者にとっては、訳者さんが頼り。こういう翻訳はありがたいですよ~!


こんな気弱な主人公で冒険小説になるの?と疑問に思った方は、ぜひ読んでみてくださいね。本当に痛快ですから!


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カナダ 2001年

難易度 ★★★ (本を読みなれている方向け)




「チェーホフの正統な後継者」

職場の同僚におススメするような本を紹介するつもりの読書ブログですが、またもや番外編。久しぶりにマンローを読んだら、やっぱりよかったので、今回は『イラクサ』をご紹介。2013年にノーベル文学賞を受賞している超有名な作家さんなので、完成度の高さは保証します! でも誰もが読んで楽しめるかと言うと、好き嫌いは分かれるんじゃないかな~。なので、職場で気軽におススメはできないかな~。


カバーに「チェーホフの正統な後継者」とあるんですけど、これがおススメできないと言った理由。チェーホフ的な短編小説とは、日常生活を漠然ととらえていて、はっきりした起承転結もわからないような作品のことです。ある短編小説を読んで、「え、これで終わりなの? 意味わかんないんだけど?」という感想が出てきたら、それはおそらくチェーホフ的な短編小説ではないかと思われます(笑)。


わたしはこの手の小説を読むたびに、長らくそんな感想でした。挙句、「この作家は下手なのか? 話の盛り上げ方も知らないのか?」と、かなりとんちんかんな感想まで持っていた(大笑) これは短編小説のひとつのジャンルなんだ、こういうものなんだとわかってからは、恥ずかしい感想は出てこなくなりました(笑)


簡素さと緻密さ

もうひとつ、万人向けじゃないな~と思うのは、文章です。


書き出しが簡素で、とっつきにくい! あまり背景や人間関係の説明をせず、読み進んでいくうちにじわじわとわかってくる書き方なんですね。わたしはそこがいい味わいになっていると思うけど、ちょっと忍耐は必要だと思います。


一方で、描写は緻密です。情景描写は細かくて、一文一文を楽しめます。


さらに心理描写がいいんです! 小説は「心のひだを書く」なんて言いますけど、本当に心のひだの一枚一枚を丹念に描写していく。わたしはマンローの心理描写を読んでいると、自分の経験と照らし合わせて、あの経験はそういうことだったんだなあと腑に落ちたりします。



「長編小説のようなずっしりとした読後感」

と、カバーに書いてあります。そのとおりだと思います。


マンロー作品は時間の扱い方が独特で、一篇のあいだに数十年という時間が経っていることが多いです。短編という短い文章の中に長い時間がぎゅっと凝縮されていて、それを俯瞰する感じ。だからマンローを読むと、長い時間を過ごしたなあと思うと同時に、充実した読書時間を過ごしたなあと、妙に満たされます。


人生というのは、うまくいくときもいかないときもある。甘さとほろ苦さはいつも隣り合わせ。それを感傷的になりすぎず、押しつけがましくなく、味わい深く書いているところが好きです。


内容(テーマ)自体は決して難しくなく、むしろ誰もが共感できるものと思います。なので、「チェーホフ」と「文章」さえクリアできれば、すばらしい読書タイムが待っています! チャレンジしてみてくださいね!


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アメリカ 1993年

難易度★★ (長いですが、文章は読みやすいと思います)


↑ Amazonではリンクできませんでした。なんでかな?


突然大金が手に入ったら……?

たまに「突然大金が手に入ったら、どうする?」なんて冗談を言い合うでしょ? 『シンプル・プラン』はそんなミステリです。わたしは本当にはまりました。友だちにも貸したことがあるけど、最後まで読み切れた人はみんな、面白いと絶賛してくれましたよ~。


はじまりはアメリカの田舎町の雪原。主人公は会計士の弟ハンク。大みそかの日、兄ジェイコブ、兄の友人ルーと三人で両親のお墓参りに出かけます。兄弟の両親は借金苦で自殺していて、墓参りをして欲しいという遺言を残したんですね。


そして彼らは果樹園の中で、墜落した小型の飛行機を見つけます。中には死んだパイロットと百ドル札の札束が詰まった袋。そばには誰もいない。


ここで面白いのが三人の反応のちがいです。


会計士の弟ハンクは警察に届けようと考えました。このお金は麻薬がらみのお金じゃないか。

無法者のルーは、一束ずつネコババしようぜ! 誰も見てないんだからさ!

兄ジェイコブは最初は黙っていたのですが、やがて、丸ごともらっちまおうぜ!


このちがいは三人の性格を反映しているだけじゃないんです。ハンクは定職に就いているけど、ジェイコブとルーは無職。でもジェイコブは兄であり、悪友ルーとつるんでは、ハンクをバカにするような態度をとっている。もうわかると思うけど、兄弟は仲が悪く、お墓参りでもなければ、会うこともない。


結局三人はとてもシンプルなプランを立てます。お金はハンクが六カ月間預かって、そのあいだは三人とも今までどおりの生活をして、このことは誰にも話さない。もし六カ月のあいだに持ち主が名乗り出たら、面倒にならないようお金は焼き捨てる。もし持ち主が現れなかったら、三人で山分けする。これならできそうだと誰もが納得できる、いいプランですよね~。


でもね、無職の男が六カ月も目の前の大金を我慢していられると思います? 家族にも誰にも話さずにいられると思います? 結局ささいなルール違反から、事態は坂道をころがるように悪化していくのでした…。


普通の人の転落

この作品が面白いのは、主人公のハンクが普通の人ってところだと思います。彼は誰もが羨む成功者というわけではないけど、会計士という真っ当な仕事に就いていて、奥さんは第一子を妊娠中。ルーやジェイコブのように無軌道で落ちぶれた生活を送っているわけではなくて、安定した暮らしと日々の幸せをつかんでいるんです。


ハンクは収入があるし、会計士だから、無職の二人とはちがうと思っています。でも収入があっても、お金は欲しいもの。たとえばお金が足りなくてあきらめた夢の一つや二つ、誰にでもありますよね。お金があったら、留学したかったなあ、とか。お金さえあれば、そういう夢を叶えることができるわけですよ。


一方で、普通の人はそれなりの幸せをつかんでいるから、それを失いたくはありません。ハンクの場合、逮捕されれば、奥さんと生まれてくる子どもにも会えなくなるわけで、それは避けたい。


これらがこの小説のいちばんコワイところだと思います。たいていの人はハンクに近い生活を送っているから、ハンクの立場を理解できてしまう。自分も同じ行動をとるかも…と。


デビュー作とは思えないほど、上手い作品だと思います。描写は細かいですけど、もたつかないし、視点も面白い。翻訳者の近藤純夫さんに感謝です。キャラクターの配置も絶妙。たとえばもし兄が会計士で、弟が無職だったら、兄弟のねじれは起きなかったと思います。見せ方も緻密に計算されていて、伏線の連続。そんなわけで、わたしはすっかりこの作家さんのファンになったんだけどなあ。十年待った新作『ルインズ』はイマイチだった…。


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イギリス 2003年

難易度★(とても読みやすいです!)

YA小説

久しぶりの児童文学、YA小説というジャンルの作品です。YAはヤングアダルトの略で、「若い大人」。日本で言ったら、高校生から大学生向けの小説ということになるのかな。このジャンルは掘り出し物がいっぱい! おすすめです!


まず文章が読みやすくていいです。読みにくいと、たとえ面白いストーリーだったとしても、なかなか進まなくて、挫折しますもんね。特にこのシアラーという作家さんの文章は、読者の関心を引きつけるのがうまくて、とっつきやすい文章だと思います。


そしてYA小説は深い内容の作品が多いと思います。生命、人生、愛、自由、正義といったテーマを取り上げて、ただ面白いっていうだけじゃなく、意味のあることが書かれている。大人のわたしが読んでもうーんと唸ってしまうんだけど…というか、大人になると、こういうことは考えなくなるのかもしれないなあ…日々の生活に追われているから。仕事とか家事とか支払いとか…おばさんは大変なのよ。愛だの自由だのなんて、考えている暇はないのよ。そんな大人にも『スノードーム』、おすすめです。



小男エックマンの物語

ある日、若い科学者クリストファーが、一本の小説とスノードームを残して、姿を消します。スノードームというのは、小さなドームの中にミニチュアの置物と液体が入っていて、逆さにすると雪が降ってくる、あれです。同僚のチャーリーは、クリスって変わった奴だったよな~と思いながら、その小説を読みはじめます。


書かれていたのは、クリスの幼いころの話。似顔絵描きの父ロバート、父の恋人でダンサーのポッピー。二人は大道芸人をしながら、その日暮らしだけど、自分の芸術に誇りを持ち、クリスと一緒に幸せに暮らしていたんですね。


そんな彼らに絡んでくるのが、エックマンという男。彼は米粒以下の極小彫刻をつくることができ、自分のギャラリーを経営し、小金持ち。でも背が低くて、醜くて、親からも疎まれ、孤独で、愛に飢えています。


エックマンはポッピーに恋をするんだけど、相手にされない。次第に彼はロバートが憎くてたまらなくなる。あいつにはポッピーも息子もいるのに、どうして自分には…というわけ。そして…。


この小説はストーリーが面白いので、ネタバレはここまでにしますね。わたしは続きはどうなるの~?と思いながら、グイグイ引き込まれてしまいました。そして最後まで読み終わったとき、また最初のページをめくってしまいました。そういう話なのよ!


愛を語る男

この作品は他にもアイデアや人間模様やいいところがたくさんあると思うんだけど、たぶんいちばんのキモはエックマンというキャラクターじゃないかな。


愛情が欲しいというのは、人間なら誰もが持っている自然な欲求ですよね。でも報われなかったとき、嫉妬したり、お金で愛情を買おうとしたり、どうにか相手を支配しようとしたり、優位に立とうとしたり、人間はとんでもない行動に出る。さらに、そんなことをしてしまった自分を後悔して、こんなことをしていても愛は得られないと気づくんだけど、もう引き返すこともできなかったり。


エックマンはただ愛されたかっただけなのに、どうしてこうなっちゃうのかなあっていう男だと思います。そしてエックマンのようなキャラクターを書くことで、愛を語るってところがいいんですよ~。


この作家さんは読んだことがなくて、たまたま手にとって、読み終えたばかり。なじみの作家さんを読む安心感とはちがって、初めて読む作家さんの作品は宝探しの冒険で、お気に入りが見つかると、やったー!と思います。それでブログに書いてみました。やっぱり本読みは楽しいです。


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イギリス 2001年

難易度 ★★★(本を読みなれている方向けだと思います)


万人向けではないけれど……

この読書ブログは読みやすい海外小説をご紹介することを目指しているんだけど、今回はマキューアンです。イギリスの文壇では、カズオ・イシグロと並び称されると聞いて、イシグロを紹介したからには、いつかはマキューアンも!と思っていました。が、マキューアンは万人向けではないと思う…。


それでも『贖罪』を読んだとき、あまりの傑作ぶりにクラクラして、しばらくのあいだ興奮が冷めなかったから、紹介したかったのです! なので、今回のブログはわたしの趣味に突っ走った番外編です。


少女ブライオニーの罪とつぐない

舞台は1935年のイギリス。その日地方旧家タリス家に親戚が集まることになりました。主人公は13歳の末娘ブライオニー。彼女は作家志望で、最愛の兄のために戯曲を書き上げ、上演しようとはりきっていますが、なかなか思い通りにはいかない。


その日、姉セシーリアは使用人の息子ロビーと思いを遂げるのですが、ブライオニーはその中に入って邪魔します。さらにロビーが従姉ローラをレイプしたと嘘の証言をして、ロビーを刑務所送りにし、その後戦争が始まります。


このブライオニーという少女が本当にかわいくない! 子どもならではの独りよがりな正義を振りかざしている姿にムカつく~!と、最初は共感できませんでした。すべてを管理、支配することが好きな性格で、それは劇の上演を通してはっきりと描かれています(こういう性格紹介もうまいです)。


振り返ると、このときのブライオニーは本当に子どもだった。そしてこのあととてもせつない展開になっていくのです。


精緻な文章

マキューアンの描写は本当に細かく、オリジナリティがあると思います。いわゆる「手垢にまみれた表現」がない、惰性で書いていない、自分の目で見て、自分の言葉で書こうとしている作家さん。この長さで、一文一文気を抜かずに書くなんて、意識が遠のいてしまいそうです。読んでいるほうは楽しいけどね~。


大胆な構成

この作品の構成は細かく計算され、しかもダイナミックです! この対比がひとつのハーモニーになっているところがすばらしいのよ~! 構成がいちばんの読みどころだと思うので、多くは書きません。


緻密なしかけ

この作品は本当にしかけが多いです。しかけに気づくと、そういうことか~と全体がわかるようになっています。わたしはこういうのに悶えます~。


一例です。


下巻で突然文体が切り替わり、「意識の流れ」という文学手法が使われます。この手法は人間の頭の中で流れている思考をそのまま書きだすというもの。なんで突然「意識の流れ」?と違和感があったんだけど、ブライオニーはヴァージニア・ウルフが好きだったことを思い出して、納得。ウルフは「意識の流れ」の代表的な作家の一人なので、これが最終章の伏線になっているんですね(すみません、わかる人にはかなりのネタバレかも……)。


こういうしかけを掘り出して読んでみるのも面白いと思います。しかけが鍵となって、作品のドアが開いていきます。


ちょっと読みにくい作品かもしれないけど、読んでみたら、大丈夫だったよ~という人も多いはず! チャレンジしてみてください!


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フランス 1986年(日本はバブル経済がスタート)

難易度 ★(文章は読みやすいです。文章はね…)




初めて読んだとき、この異様さにびっくりした! こんな小説は他で読んだことがないと思った! 子どもが書いた作文という形式なので、誰でも読めるんだけど、純粋無垢な子どもの作文ではない、異色作です。男友だちに薦めたら、「グロすぎて、最後まで読めなかった」と言われました。何よ、わたしは20代のとき、楽しく読んだわよ。


残酷な現実を生き抜く訓練

主人公は双子の男の子たち。第二次世界大戦末期、生活に困窮した母親が10年間音信不通だった祖母を訪ねて、双子を預けて立ち去ります。そんなわけで、ハンガリーの田舎の村で美しき双子の新しい生活が始まるのです。しかしほのぼのとした展開にはなりません…。


まずこのおばあちゃんが異様なキャラです。村では「魔女」と呼ばれているんだけど、ほぼ妖怪…。けちで、汚くて、ずるくて、残酷。さらにどうやら夫を毒殺し、しらばっくれているようです(でもどこかユーモラスで、孤独感や必死さも感じられて、わたしは嫌いじゃないです)。


こんなおばあちゃんのもとで双子ちゃんは暮らしていけるのかしら?と心配する方もいるかもしれないけど、それは不要。双子は恐るべき適応能力を発揮します。自ら心身を鍛え、どんな極限状態にも対処できるようになるのです。断食で飢えに耐えられるようになっておく、ふだんから不潔にしておく、動物を殺して残酷な行為に慣れておくって…そりゃあ備えあれば患いなしって言うけど、そこまでやらんでも…。


おそらく作者は、戦時中の世界で起きているのはもっと残酷なことなのだと言いたかったのだと思います。そこまでやらんでも…と思うのは、恵まれた社会で生きているからだよ!と言われることでしょう。すみません。


双子は訓練の成果もあり、現実世界をしたたかに生き延びていきます。おばあちゃんが妖怪なら、双子は怪物って感じに成長していくんですね。


事実のみを見る目

同時に双子は作文を書きはじめ、作文にはルールを設けています。「精確で客観的な事実のみを書くこと」「感情は主観的で、漠然としているので、書かないこと」 この作文が『悪童日記』の本文になっています。つまり残酷な現実を淡々と描写するだけという異様な文体なんだけど、人間の本質を突いてくるように感じられます。ここがまた読みごたえありなんです!


作文の主体はつねに「ぼくら」です。どちらかを指すときは、「ぼくらのうちの一人」「ぼくらのうちのどちらか」と表現されます。双子の名前は出てこず、性格のちがいなども書かれていません。この双子の徹底した一心同体ぶりは異様に感じられるんだけど、この人称が衝撃のラストシーンにつながっていきます。ものすごい構成です!


やがて独自の正義で裁く

心身を鍛え、周囲を客観的に見るようになった双子は、やがて独自の正義を行なっていきます。彼らのやり方で人を裁くんですね。双子の正義は暴力や殺人もいとわないけど、根底にあるのは愛や思いやり、命と尊厳を守ることなんです。獣のような人間が多い中、人間として生きることをあきらめていないようにも見え、一方で正義を行なうほど怪物化していくような…。


彼らのやり方はテロリズムと言ってしまえばそれまでなんだけど、共感する人は多いと思います。だから一時的なベストセラーで終わらず、名作として読み継がれているんじゃないかなあ。


この作品には続編『ふたりの証拠』『第三の嘘』があります。こちらは多くの人が傑作と評する本作と比べると、賛否両論が分かれると思います。わたしは『悪童日記』のキレのよさが好きなので、本作のみで終わったほうがよかった派です。


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お正月の風邪はインフルエンザB型でした。


その後後遺症があり、めまいが続いています。

平衡感覚がおかしくて、まっすぐ立てない。

ずっと頭がぼんやりしていて、言葉がなかなか出てこないのです。

インフルエンザの破壊力は恐ろしい……。


月末に脳のMRIの予定です。

引き続き読書ブログをお休みします。すみません。


今年は小説の第7話を書き上げよう!と思っていて、がんばるつもりだったんだけどなあ。

現在1722枚で止まっています。


友だちが励ましのクッキーをくれました。

ルーフィス、ディアン、メイヴェです。


嬉しい。なかなか食べられない。